日系企業が知っておきたいビザ・税務・労働関連変更点まとめ 2026年7月1日
更新日:6 日前

2026年7月1日からビザ、税務、労働など、駐在員日系企業に関わる変更が発表されました。各専門家に確認し、変更点を一挙にまとめました。
2026年7月1日からのビザ申請料金の引き上げ
ビザおよびスポンサーシップに関する手続きにおいて、7月1日は「移民法務カレンダー」上、最も重要な日となります。これは、主要な法改正の多くが通常この日に施行されるほか、オーストラリア内務省(Department of Home Affairs:DoHA)が毎年この日にビザ申請料金を改定するためです。
2026年7月1日に導入されたビザ申請料金の引上げでは、各種料金について概ね20%前後の値上げが行われましたが、特に大幅な引上げとなったのが、永住者再入国ビザ(Resident Return Visa:RRV)です。サブクラス155のRRV申請料金は、490豪ドルから1,475豪ドルへと引き上げられ、値上げ率は200%を超えました。
この引上げは、オーストラリアに居住する日本人永住者コミュニティに相当の影響を及ぼす可能性があります。オーストラリアに永住する日本人の多くは、オーストラリア国籍を取得しないため、通常、家族一人ひとりが5年ごとにResident Return Visaを「更新」する必要があります。
例えば、2026年7月1日の料金改定後、両親2名と子ども1名の3人家族(全員がオーストラリアの永住権保持者)の場合、3名分の永住者帰国ビザ(Resident Return Visa)が必要となり、現在の申請料金の合計は4,425豪ドルとなります。
永住者再入国ビザは、海外渡航をする場合にのみ必要となるため、今後は費用負担を考慮し、海外渡航の予定およびビザ更新時期について、これまで以上に事前の計画を立てることが重要となります。
Payday Super制度(給与支給時のスーパーアニュエーション納付)導入
2026年7月1日から、全てのオーストラリアの雇用主は、従業員のSuperannuation Guaranteeをこれまでの最低四半期ごとの納付ではなく、給与支給時(Payday Super)に納付することが義務付けられました。新制度では、毎給与計算を行うタイミングでスーパーアニュエーションの支払いを処理の上、給与支給日から7営業日以内に各従業員のスーパーアニュエーション基金へ着金させる必要があります。
この制度は、スーパーアニュエーションの未払いを防ぎ、従業員の権利をより確実に保護することを目的として導入されます。
オーストラリア税務局は、新制度開始の1年間以内については、適切な対応を行おうと努力している雇用主事に対しては、直ちに罰則を科すことはないとの方針を示しています。一方で、スーパーアニュエーションの支払い遅延について、Fair Work Ombudsmanが従業員の権利保護の観点からどのように対応するかについても注目されています。
関連記事は、KUYAMA ITO & CO PTY LTDのサイトに記載されています。
Small Business Super Clearing Houseの終了
Payday Super導入に伴い、オーストラリア税務局が無料提供されていたSmall Business Super Clearing Houseは2026年7月1日よりサービスを終了しました。サービス終了後は、以下のいずれかをご利用される必要があります。
Single Touch Payrollに対応した給与計算ソフト内での設定を利用
民間のスーパーアニュエーション Clearing Houseサービスを利用
個人Tax Return |仕事関連経費に対する$1,000の標準税務控除を導入
2025-26年度での個人Tax Returnから対象となる給与所得者は、業務関連経費について最大$1,000の標準控除(Standard Deduction)を選択できるようになります。
この制度を利用する場合、$1,000までの仕事関連経費については、領収書などの支払証明を個別に領収書を保管、控除経費申告する必要がなく、税務控除を受けることができます。一方で、仕事関連経費が$1,000を超過の場合は、従来のように実際に支出した経費を申告する方法を選択することができます。この場合は、領収書などを保管の上、通常のルールに基づいて控除経費を申告する必要があります。
所得税率の引き下げ(第2段階)
2026年7月1日より、課税所得18,201ドル〜45,000ドルの所得税率が16%から15%へ引き下げられました。オーストラリア税務局の公表によると、この改正により2024-25年度の税率と比較して年間最大$268の所得税軽減となる見込みです。
ASIC関連の会社設立、Annual Review、ビジネスネーム登録料の改定
2026年7月1日から、ASIC(Australian Securities and Investments Commission)の各種手数料も改定されます。
会社設立登録料:$611ドル → $636
Proprietary Company(株式会社)のAnnual Review Fee:$329→ $342
ビジネスネーム登録料 1年間更新:$45 → $47
ビジネスネーム登録料 3年間更新:$104 → $108
スーパーアニュエーション拠出限度額の引き上げ
2026年7月1日から、税制優遇の対象となるスーパーアニュエーションへの年間拠出限度額が以下のように引き上げられます。
Concessional Contributions(税引前拠出)$30,000 → $32,500
Non-concessional Contributions(税引後拠出)$120,000 → $130,000
また、Bring-forward Ruleに基づき複数年分を前倒しの上、税務控除できる上限額についても引き上げられる予定です。
最低賃金・Modern Awardの引き上げ
Fair Work CommissionによるAnnual Wage Reviewにより、2026年7月1日以降に開始する最初の完全な給与計算期間(first full pay period)から、最低賃金が改定されました。
主な変更点は以下のとおりです。
National Minimum Wage(全国最低賃金):時給 $26.44
週給(38時間換算):$1,004.90
Casual最低時給(25%のCasual Loading込み):$33.05
Modern Award最低賃金:原則 4.75%引き上げ
ここで一番間違えやすいのが、「Awardが4.75%上がったのだから、全員の給与も4.75%上げればよい」という考え方です。 実際に確認すべきなのは、適用されるAward、Classification(職種区分)、Penalty RateやAllowance、そして年俸制の場合は、その年俸が改定後のAward上の権利を十分に満たしているかどうかです。 現地スタッフを雇用している企業では、「年俸制だから大丈夫」と思い込まず、一度確認しておくことをおすすめします。
日本人駐在員でも、現地契約へ切り替わっている場合はAwardが適用されているケースも決して珍しくありません。
Payday Superの開始 ― Payroll担当者は特に注意
今回の改正で、実務への影響が最も大きいと言われているのがPayday Superです。
これまでSuperannuation(退職年金)は四半期ごとの支払いが認められていましたが、2026年7月からは給与を支払うたびにSuperの支払い義務が発生します。
原則として、給与支払日から7営業日以内に従業員のSuper Fundへ反映される必要があります。なお、新入社員の最初の拠出など、一部のケースでは異なる期限が適用されます。
また、Super計算の考え方も、従来のOrdinary Time Earnings(OTE)から、新しいQualifying Earnings(QE)へ変更されました。
Payrollを外部委託している場合でも、「システム側で対応しているはず」と思い込まず、実際に新制度へ移行できているか確認しておくと安心です。
政府のPaid Parental Leave給付が拡大 ― ご家族での移住予定がある方は要チェック
政府が支給するPaid Parental Leave(Parental Leave Pay)も拡充されました。
2026年7月1日以降に生まれた、または養子縁組された子どもを対象に、
支給期間:24週間(120日)→ 26週間(130日)
Partner Reserved Days(パートナー専用日数):15日 → 20日
へ拡大されています。
オーストラリアで出産・育児を予定しているご家庭には直接関係する制度です。
ここで誤解されやすいのですが、これは政府が支給する給付制度であり、会社独自のPaid Parental Leave制度とは別の制度です。
社内制度を確認する際は、この2つを分けて理解しておくことが大切です。
High Income Thresholdの引き上げ
High Income Threshold(高所得基準額)も、$183,100 → $190,100 へ引き上げられました。
この金額は、不当解雇(Unfair Dismissal)やFixed-term Contract(有期契約)など、複数の制度に関わってきます。
ただし、「年収が$190,100を超えたら不当解雇の対象外になる」という単純な話ではありません。
Awardの適用有無や契約内容によって扱いが変わるため、給与額だけで判断しないことが重要です。
一部業界ではさらに大きな賃金改定も
今年はAnnual Wage Reviewとは別に、Fair Work CommissionによるGender-based Undervaluation Review(女性比率の高い職種の賃金見直し)も進められています。
そのため、保育や薬局など一部の業界では、通常の4.75%引き上げとは別に、段階的な賃金改定が実施されています。 該当する業界では、「4.75%だけ反映すれば終わり」ではなく、それぞれのAward Pay Guideを個別に確認することが必要です。
ビクトリア州ではNDAに関するルールも変更
ビクトリア州では、職場におけるセクシュアルハラスメント事案に関するNDA(秘密保持契約)の取り扱いについて、新しいルールが施行されました。
会社側の都合だけで一律にNDAを求めることはできず、被害を申し立てた本人の意思や一定の手続きが重視される制度へ変わっています。
ビクトリア州で事業を行っている企業は、和解書や契約書のひな形についても、一度見直しておくと安心です。
まとめ ― 「給与だけ直せば終わり」ではありません
2026年7月の制度改正というと、どうしても最低賃金の話に目が行きます。
でも実際に企業側で確認しておきたいのは、それだけではありません。
Awardの新しいPay Rateは反映されているか。
Payday SuperにPayrollの仕組みは対応しているか。
年俸制のスタッフについても、現在の給与がAward上の権利をきちんとカバーできているか。
雇用契約書や社内Policyは、今のルールとズレていないか。
オーストラリアでは、制度が変わったからといって、誰かが会社の運用まで直してくれるわけではありません。
特に日本から赴任して間もない駐在員の方にとっては、「日本ではこうだったから」という感覚が通用しない場面も少なくありません。
すべてを覚える必要はありませんが、自社のPayroll、雇用契約、Award、社内Policyが現在のルールに合っているかを定期的に確認する習慣は持っておきたいところです。
2026年7月の制度改正は、その棚卸しをする良いタイミングと言えるでしょう。
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楠本 岳(Kusumoto Takeshi)
人材コンサルタント/CAREER MEISTER
2007年にオーストラリアの人材紹介会社に転職し、メルボルンへ移住。
人材営業、メルボルン支店長、会社取締役を経て2014年末に独立の為に退職。2015年2月にCAREER MEISTERを創業。 日系企業のオーストラリアビジネス参入や事業発展を人材面から支えるプロフェッショナルとして、これまでに100社を超える企業への紹介実績と5000人以上の面談実績、500人を超える成約実績。現在は CAREER MEISTER (Kusumoto & Co Pty Ltd) のCEOを務める。

ニコラス・ウィリアムズ
不動産エージェント豪州公認移民コンサルタント/TOTAL MIGRATION SERVICES PTY LTD
ニュージーランド出身で、移民関連業界に20年以上携わっています。TOTAL MIGRATION SERVICES PTY LTD代表コンサルタントとして、移民法の政策のトレンドに精通し、様々なビザ案件を手掛けながら、特に雇用主スポンサービザに焦点を当てています。ニックは、オーストラリア登録移民エージェント(MARN 1067210)です。大学卒業後に1年半ほど過ごした日本、とりわけ旅行で訪れた九州の大ファンになり、料理好きも相まって、豚骨スープを手作りし自宅で「本格的豚骨ラーメン作り」を楽しむまでとなりました。天気の良い週末には海辺をドライブしたり、庭でB B Qをしたりと、これぞオーストラリアなライフスタイルも満喫してます。

伊藤 義文(Ito Yoshifumi)
豪州公認会計士・登録税理士/Kuyama Ito & Co Pty Ltd
東京生まれ、育ちはオーストラリア・メルボルン。
日英バイリンガル会計・税理士として、個人事業主から中小企業までの税務申告、経理業務代行、各種財務書類の作成、ビジネスコンプライアンス業務、経営者へのコンサルティング業務が専門。20年以上の知識と経験を活かして、クライアントの個別ニーズに応えながら、ビジネスの成長と発展をサポートしています。最近では、CPA PROGRAM(豪州公認会計士)における「税務」分野の資格試験問題の作成にも従事。現在は、KUYAMA ITO & CO PTY LTD(久山・伊藤会計事務所)の所長です。



