オーストラリア最低賃金、2026年7月から引き上げへ
- 楠本 岳

- 6月2日
- 読了時間: 6分

最低賃金が上がるということは、採用基準も上がるということ
Fair Work Commissionが、2026年7月1日以降の最低賃金引き上げを発表しました。
数字だけを見ると、National Minimum Wageは時給$24.95から$26.44へ6%アップ。週38時間換算では、週給$948.00から$1,004.90になります。また、Modern Award minimum wagesについては、一律4.75%の引き上げが決定されています。
ただ、今回の話は「最低時給が上がります」というだけで終わるものではありません。
オーストラリアで働く人にとっては、もちろん大切なニュースです。
一方で、オーストラリアで事業を行う企業、特に現地で人を雇用している中小企業にとっても、かなり大きな意味を持つ変更だと感じています。
表面の4.75%より、実際の負担は重い
企業側の目線で正直に言うと、賃金が上がれば、それに連動して動く項目がたくさんあります。Superannuation、Overtime、Penalty rates、Allowances、Casual loadingなど、基本給の上昇に引っ張られるものは少なくありません。
しかも、2025年7月からSuperannuation Guaranteeはすでに12%に上がっています。給与が増えれば、会社が負担するSuperの金額も当然増えます。つまり、表面上は4.75%の引き上げに見えても、総人件費ベースで見ると、それ以上のインパクトになる可能性があるということです。
もちろん、今回の引き上げには背景があります。
ここ数年のオーストラリアでは、家賃、物価、燃料費を含め、生活コストが高い状態が続いてきました。特に低賃金で働く人たちにとって、生活費の上昇は非常に切実な問題です。その意味で、Fair Work Commissionの判断自体は十分に理解できるものだと思います。
ただ、経営している側から見ると、そこにはもう一つの現実があります。
「安く雇う」は、もう成立しない前提で考える
オーストラリアで人を雇うことは、年々難しくなっています。
賃金は上がる。Superも上がる。Awardの確認も必要になる。
Wage Theftへの社会的・法的な視線も、以前よりはるかに厳しくなっています。
特に日系の中小企業の場合、日本の感覚で「このくらいの給与で採れるだろう」と考えてしまうと、現地の労働市場とのギャップに苦しむことになります。最低賃金はあくまで法律上の下限であって、そのラインで良い人材を採用し、さらに長く定着してもらうところまで期待するのは、現実的には難しい職種も多いです。
今回の改定は、ある意味で企業への問いかけでもあると思います。
その給与で、本当に人が来るのか。
その給与体系で、コンプライアンス上の問題はないのか。
その人件費を前提にして、事業としてきちんと利益を出せる設計になっているのか。
これは、単なる給与改定の話ではなく、採用、定着、収益性、労務管理を含めた経営全体の話になってきます。
企業が今すぐ確認しておきたいこと
最低賃金の引き上げを前に、企業側が確認しておくべきことは明確です。
まず、自社の従業員がどのAwardに該当しているのか。
次に、現在の給与が2026年7月以降の基準を満たしているのか。そして、Penalty rates、Overtime、Allowances、Casual loadingなどが正しく反映されているのか。
特に注意したいのは、年俸制や固定給で雇用しているケースです。
「年俸で払っているから大丈夫」と思っていても、実際の勤務時間、残業、週末勤務、Award上の最低条件に照らして分解してみると、不足が出ることはあります。悪意がなかったとしても、結果として基準を下回っていれば問題になる。これがオーストラリアの労働法の厳しさです。
このタイミングで、給与テーブル、雇用契約書、Payroll管理、Timesheetの運用を一度見直しておくことをお勧めします。
小さな確認不足が、後々大きな問題になることもあります。
逆に言えば、今のうちに整理しておけば、防げるリスクも多いはずです。
求職者も、給与だけを見ていればいい時代ではない
働く側にとって、最低賃金の引き上げは良いニュースです。生活コストが高い中で、賃金が上がること自体は当然歓迎されるべきことだと思います。
ただし、ここも少し冷静に見ておく必要があります。
企業が人を雇うためのコストが上がるということは、その分、採用に対する目線も厳しくなるということです。以前であれば採用されていた人材でも、今後は「その給与を払うだけの理由があるか」をより慎重に見られる可能性があります。
特にオフィス職、専門職、バイリンガル職では、「日本語が話せる」「英語がある程度できる」だけでは、以前より評価されにくくなっています。
企業が求めているのは、すぐに実務に入れる人、自分で考えて動ける人、正確に仕事を進められる人、長く働く見込みがある人、そしてビザ面でも安定している人です。
給与水準が上がるということは、働く側に求められるものも上がるということです。
「生活費が高いから、これくらい欲しい」という気持ちはよく分かります。
ただ、就職活動の現場ではもう一歩進んで、「その給与を会社が払う理由を、自分は示せているか」と考えることが大切になります。
ここを冷静に見られる人と、希望条件だけが先に立ってしまう人では、今後ますます差が出てくると思います。
賃金が上がり続ける時代に、何を見直すべきか
今回の最低賃金引き上げは、企業にとっても、働く人にとっても、あらためて現実を見直すタイミングだと感じています。
企業側は、安く人を雇う発想から抜け出し、適正な給与で、必要な人材をどう採用し、どう定着させるかを考える必要があります。単に給与を抑えるのではなく、その人件費で事業としてきちんと成立する仕組みを作ることが大切です。
一方で求職者側も、給与水準の上昇を単純な追い風として見るだけではなく、自分自身の市場価値を冷静に見直す必要があります。企業がその給与を払いたいと思えるだけの経験、スキル、安定性、再現性を示せるかどうかが、これまで以上に重要になります。
賃金は上がる。
採用基準も上がる。
そして、経営に求められる精度も上がる。
今回の最低賃金引き上げは、その流れをあらためて確認させてくれる出来事だと思います。
オーストラリアの雇用環境は、これからも決して安くはなりません。
だからこそ、企業も求職者も、「今までの感覚」のままで考えるのではなく、現地の現実に合わせて、考え方を少しずつアップデートしていく必要があるのだと思います。
※関連記事:
オーストラリアでの雇用、人材採用について、まずはお気軽にご連絡ください。
まるっとオーストラリアでは駐在員のリロケーションもお手伝いしています。メルボルン、ブリスベン、ゴールドコースト、(シドニー準備中)の賃貸物件探しについてのご相談はこちらからご確認ください。

楠本 岳(Kusumoto Takeshi)
人材コンサルタント/CAREER MEISTER
2007年にオーストラリアの人材紹介会社に転職し、メルボルンへ移住。
人材営業、メルボルン支店長、会社取締役を経て2014年末に独立の為に退職。2015年2月にCAREER MEISTERを創業。 日系企業のオーストラリアビジネス参入や事業発展を人材面から支えるプロフェッショナルとして、これまでに100社を超える企業への紹介実績と5000人以上の面談実績、500人を超える成約実績。現在は CAREER MEISTER (Kusumoto & Co Pty Ltd) のCEOを務める。


