オーストラリアの解雇ルール
- 楠本 岳

- 5月27日
- 読了時間: 6分

Notice / Redundancy の基本を分かりやすく解説
オーストラリアでは、会社が「今日で終わりです」と自由に解雇できるわけではありません。
解雇には、最低限守るべきルールがあります。
特に押さえておきたいのは、次の3つです。
Notice(解雇予告)
Redundancy(ポジション廃止による整理解雇)
Unfair Dismissal(不当解雇)
日本と比べると、オーストラリアは「絶対に解雇できない国」ではありません。
ただし、手続きや条件を間違えると、企業側のリスクが大きい国です。
オーストラリアで重要なのは「解雇できるか」より「どう進めるか」
オーストラリアの解雇ルールは、感覚的には日本よりシンプルです。
ただし実務では、
必要なNoticeを出しているか
Redundancy Payが必要か
不当解雇と見なされるリスクがないか
この3点が非常に重要になります。
つまり、ポイントは解雇そのものより、プロセスの正しさを重要視する傾向にあります。
1. Noticeとは?
解雇には事前通知が必要
オーストラリアでは、原則として、解雇の際にNotice(解雇予告)が必要です。
NES(National Employment Standards)上の最低基準は、勤続年数によって決まっています。
勤続年数 | 最低Notice |
1年以下 | 1週間 |
1年超〜3年以下 | 2週間 |
3年超〜5年以下 | 3週間 |
5年超 | 4週間 |
さらに、45歳超で、かつ勤続2年以上の場合は、追加で1週間必要となり、
たとえば、47歳で勤続6年の従業員であれば、最低Noticeは5週間になります。
2. Pay in lieu of noticeとは?
Noticeの代わりにお金を払って即日終了も可能
会社は、従業員にNotice期間を実際に働いてもらう代わりに、payment in lieu of noticeとして、その分を支払って即日終了にすることもできます。
ここで重要なのは、単なる基本給ではなく、そのNotice期間に働いていたら本来受け取ったはずの全額を払う必要がある点です。Fair Workでは、この中にloadings、monetary allowances、overtime、penalty ratesなども含まれるとしています。
つまり、実務では「4週間分の基本給だけ払えばよい」と単純には考えない方が安全です。
3. 重大な違反があれば即時解雇もある
Serious Misconduct (重大な違反)の場合はNotice不要
一方で、暴力、盗難、重大な安全違反、深刻なハラスメントなど、serious misconductに当たる場合は、Noticeなしで即時解雇が可能なケースがあります。
ただし、Noticeが不要でも、未払い賃金や未消化分の有給などの精算義務まで消えるわけではないという点は誤解をしないように注意が必要となります。最終給与として支払うべきものは別途整理が必要です。Redundancyにも、最終支払いには未使用の有給やLong Service Leaveが含まれうることが明記されています。
4. Redundancyとは?
「その人が不要」ではなく「そのポジションが不要」
Redundancyは、いわゆる会社都合の整理解雇です。実は最近では、これが頻繁に発生しています。
Redundancyのポイントは、本人の能力や態度の問題ではなく、業務縮小、組織変更、事業再編などで、その役割自体が不要になることです。
NES上の最低Redundancy Payは、以下の通りです。
勤続年数 | Redundancy Pay |
1年以上2年未満 | 4週間 |
2年以上3年未満 | 6週間 |
3年以上4年未満 | 7週間 |
4年以上5年未満 | 8週間 |
5年以上6年未満 | 10週間 |
6年以上7年未満 | 11週間 |
7年以上8年未満 | 13週間 |
8年以上9年未満 | 14週間 |
9年以上10年未満 | 16週間 |
10年以上 | 12週間 |
10年以上で12週間に下がるのは、オーストラリアの制度上では珍しく見えますが、これはLong Service Leaveとの関係も背景にあります。
なお、Redundancy Payは、通常労働時間に対する base pay rateで計算され、loadings、allowances、overtime、penalty ratesは含まれません。ここはNoticeの pay in lieu とは少し考え方が違います。
5. 小規模企業は例外あり
15人未満はRedundancy Pay不要が原則
National Employment Standards (=NES)(雇用の基本)では、小規模の企業にはRedundancy Payの原則適用がありません。
一般に、従業員15人未満の小規模企業は、Noticeは必要でも、Redundancy Payは不要となるケースが多いです。
日系の小規模法人はこれに該当しますので、注意が必要となります。
6. Unfair Dismissalとは?
「解雇した」ことより「解雇の仕方」が問われる
従業員が「不当に解雇された」と考えた場合、Fair Work Commissionに申立てができます。
申立ては解雇から21日以内に行う必要があります。
対象になるための主な条件は、
勤続6か月以上
ただし小規模企業では12か月以上
さらに、Awardやenterprise agreementの対象であるか、または high income threshold(高額所得基準)未満であることです。(Fair Work Ombudsmanでは、2026年3月時点の high income threshold は $183,100 です。)
不当解雇と認められた場合、結果としては復職または法定上限のある報酬につながる可能性があります。
7. 試用期間中なら自由に切れる、は危険
Probation(試用期間)でもNESは適用される
実はこれは、日本企業がかなり誤解しやすいポイントです。
オーストラリアでも試用期間はありますが、試用期間だから労働条件が軽くなるわけではありません。
Fair Work Ombudsmanも、試用期間中でも通常と同じ権利が適用され、NESも適用されると明記しています。フルタイムやパートタイムであれば、試用期間中でも有給やSick Leaveは通常通り加算します。
実際、Fair Workの解説例でも、6か月の試用期間中の従業員に1週間のNoticeが必要とされています。
つまり、「試用期間中だから今日で終わり」 という雑な運用は危険です。
もちろん、試用期間中は不当解雇の申立て要件である最低勤続期間に達していないことも多いですが、それでも差別、報復的な解雇、手続き不備などは別問題です。
試用期間だから何でもできる、という考え方はオーストラリアでは通用しません。
オーストラリアは「解雇不可」の国ではなく「手続き重視」の国
日本では、解雇はかなりハードルが高いという印象があります。
一方オーストラリアは、正当な理由と適切なプロセスがあれば、解雇そのものは制度上あり得ます。
ただし逆に言えば、
警告がない
改善機会がない
記録がない
NoticeやRedundancy Payを理解していない
こうした状態だと、一気にリスクが高まります。
オーストラリアでは、感覚ではなく、制度と手順で進めることが大切です。
まとめ
オーストラリアの解雇ルールでまず押さえたいのは、この4点です。
1. 解雇にはNoticeが必要
2. 即日終了でも pay in lieu が必要になることがある
3. Redundancyには別途補償が発生する場合がある
4. 不当解雇は「解雇の仕方」が問われる
そして、実務で一番大事なのは、「解雇できるかどうか」ではなく、「正しいプロセスを踏めているか」です。
日本本社の感覚だけで判断すると、オーストラリアでは思わぬトラブルになることがあります。
特に駐在員や現地マネジメント層は、この違いを最初に理解しておくことが大切です。
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楠本 岳(Kusumoto Takeshi)
人材コンサルタント/CAREER MEISTER
2007年にオーストラリアの人材紹介会社に転職し、メルボルンへ移住。
人材営業、メルボルン支店長、会社取締役を経て2014年末に独立の為に退職。2015年2月にCAREER MEISTERを創業。 日系企業のオーストラリアビジネス参入や事業発展を人材面から支えるプロフェッショナルとして、これまでに100社を超える企業への紹介実績と5000人以上の面談実績、500人を超える成約実績。現在は CAREER MEISTER (Kusumoto & Co Pty Ltd) のCEOを務める。


